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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「一人ですか? ま、入って下さい」
素子は、磯崎と一緒に伸子の室の方へはいりかけた。ベレーをかぶったまま、蒼い顔をしていた磯崎は、
「ええ」
と、曖昧に返事したが、若向きの縞の背広につつまれているやせぎすの体をこわばらして廊下に立ったきり、
「実は、思いがけないことがおこったもんで」
と云った。
「田舎にあずけてあった子供が、けさ、急になくなったんです」
「なくなった?――死んだんですか?」
「それほど悪いとは医者も思っていなかったらしいんですが……」
磯崎の瞼の下にそがれたようなやつれが見えた。
「――つい、四五日前じゃありませんか。わたしたちが夕方、あなたの留守にデュトへ行ったのは。――あのとき、須美子さんがちょっとそんなことを話していられたけれど」
「あの次の日須美子と二人で、行って見たんです。そして、あっちのマダムもすすめるもんでパリへつれてかえって来て、そのまま病院へ入れたんです。医者もただの消化不良だって云っていたんですが」
「――子供なんて、こわいなあ。それで、どういうことになるんです? 出来ることがあったら云って下さい、何でも手伝うから……それにしても急なんだなあ」