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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そのとき親切にしてくれた日本の娘が、お花さんという名だったのだそうだ。ノヴィコフの家庭では、お花さんという名が、彼の波瀾の多かった半生につながる半ば架空的な名物となっているらしくて、白絹のブラウスをつけた細君もわきから、

「彼は、どうしてももう一度日本へ行って、お花さんに会う決心だそうですよ」

と笑いながら云った。

「わたしは、お花さんによくお礼をいう義務があるんだそうです」

クロンシュタットの海兵が反乱をおこしたとき連座して、一九一七年までイギリスに亡命して暮したプリヴォイ夫妻は英語を話した。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の住宅難で自分のうちに落付いた仕事部屋のないプリヴォイは、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)郊外に出来た「創作の家」で、「ツシマ」という長篇をかいているところだった。

石垣のように円をつみ重ねたいたずらがきを濃くなぞりながら、伸子は、あのプリヴォイがたとえ酔ったからと云って、伸子を掬い上げたりするだろうか、と思った。それは想像されないことだった。プリヴォイには、そういう想像がなりたたない人柄が感じられる。けれども、ポリニャークもプリヴォイも同じロシアプロレタリア作家同盟に属している。