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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)を、半円にかこんでいる二本の並木道の内側の一本が、丁度フラム・フリスタ・スパシーチェリヤの真前の小さい広場のところからはじまっていて、その辺にはいつも子供や買物籠を下げた女の姿があり、並木道のはじまるところらしい、ごちゃついたざわめきがあった。ニキーツキー門を通って来る電車の終点がこの並木道の外にあった。並木道の下の停留場ですっかり客をおろした電車は、空のまま戻って行ってすこし先の別の停留場から新しい客をのせた。電車の停留場のある通りは家々の正面の窓から並木道の雪の梢が眺められる住宅街である。
ひとが、或る町に住んでいて、やがてもうそこには住まなくなる。そのことには、何か不思議な感覚があった。伸子たちの窓からみえる景色が、トゥウェルスカヤ大通りの裏側のこわれた大屋根の鉄骨ではなくなって、アストージェンカの大きいばかりで趣味のないフラム・フリスタ・スパシーチェリヤであり、並木道の入口の光景であるということは、何か不思議な感じだった。
アストージェンカの室の二重窓にカーテンがなかったから、雪明りまじりの朝の光はいきなり狭い室の奥にまでさした。