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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

浴室のドアをあけて、伸子は素子をよんだ。そして、もって来て貰ったブラウスとスカートをつけ、又、その上から羽織をはおって、室へ戻ってみると、ドアの横のベッドの裾のところの椅子に、一人の男がかけている。入ってゆく伸子をみて、そのひとは椅子から立った。一種ひかえめな物ごしで、

「突然あがりまして。宮野です」

と云った。

「レーニングラードでバレーの研究をして居られるんだって」

「着いて停車場から真直あがったもんですから、朝から大変お邪魔してしまって……」

そのひとはほんの一二分の用事できている人のように、カラーにだけ毛のついた半外套をきたまま、そこにかけていた。伸子は、その形式ばったような行儀よさと、いきなり女の室に入っていたような厚かましさとの矛盾を妙に感じた。意地わるい質問と知りながら伸子は、

「秋山宇一さんとお知り合いででもありますか」

ときいた。

「いいえ。――お名前はよく知っていますがおめにかかったことはありません。まだ居られるそうですね」

「じゃ、どうして、わたしたちがこんなところにいるっておわかりになったのかしら――」

紹介状もない不意の訪問者は二十四五で、ごくあたりまえの身なりだった。