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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
けれども、おしまいまで何心なく見て行った伸子は、これだけの写真の数の中にゴーリキイの子供の時分を撮したものは見なかったような気がした。けれども、見なかったということも、確かでなかった。
伸子は、またはじめっから、仕切りの壁に沿って見なおして行った。マクシム・ゴーリキイが生れて育った古いニージュニ・ノヴゴロドの市の全景がある。ヴォルガ河の船つき場や荷揚人足の群の写真があり、ニージュニの町はずれの大きなごみすて場のあったあたりもうつされている。写真の下に簡単な解説が貼られていた。このごみすて場からボロや古釘をひろって、祖母と彼のパンを買う「小銭を稼いだ」と。けれども、そこには、ごみすて場をあさっている少年ゴーリキイの写真は一枚もなかった。
写真の列は年代を追って、伸子の前にカザンの市の眺望を示し、アゾフ海岸の景色や、近東風な風俗の群集が動いているチフリス市の光景をくりひろげた。解説は語っている。カザンで十五歳のゴーリキイを迎えたのは彼がそこへ入学したいと思ったカザン大学ではなくて、貧民窟と波止場人足。やがてパン焼職人として十四時間の労働であったと。ここにもゴーリキイそのひとは写っていない。