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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

チェホフの写真として伸子の記憶にあるのは、どれも、ここにゴーリキイとうつっているような時代になってからのチェホフの姿ばかりだった。少年のチェホフの写真をみた人があるかしら。――記憶のあちこちをさぐっていた伸子は、一つのことにかっちりとせきとめられた。それはチェホフも少年時代はおそらく貧乏だったにちがいない、ということだった。チェホフの父は解放された農奴でタガンローグというアゾフ海の近くのどこかの町で屋台商人として生活していた。と読んだことが思い出された。そうだとすれば、チェホフも、少年の頃ちょいちょい写真をとってもらったりするような生活の雰囲気はもっていなかったのだ。

それらのことに気がつくと、伸子はひとりでに腋の下がじっとりするような思いになった。

雪どけが終って春の光が溢れるようになると、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の並木道やモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)大学の構内で、ときには繁華な通りでビルディングを背景に入れたりして、おたがいに写真をうつし合っているソヴェトの若い人たちを、どっさり見かけるようになった。つい二三日前、伸子と素子とがブリ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ールを散歩しているときだった。