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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そう思うと展覧会の飾り布の赤い色が一層ぼやけた。すれっからしの自分を自分に認めるのは伸子にとって切なかった。

伸子は、どこかしょんぼりとした恰好で、中央美術館のルネッサンス式の正面石段を一歩一歩おりて、通りへ出た。雪どけが終って、八分どおり道路が乾いたらモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)は急に喧しいところになった。電車の響、磨滅して丸いようになった角石でしきつめられている車道の上を、頻繁に荷馬車や辻馬車が堅い車輪を鳴らし、蹄鉄としき石との間から小さい火花を散らしながら通行する物音。伸子が来たころモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)は雪に物音の消されている白いモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)だった。それから町じゅうに雪どけ水のせせらぎが流れ、日光が躍り雨樋がむせび、陽気ではねだらけでモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)は音楽的だった。こうして、道が乾くと乾燥しはじめた春の大気のなかでは、電車の音響、人声、すべてが灰色だの古びた桃色だの剥げかかった黄色だのの建物の外壁にぶつかって反響した。

モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来て半年たったきょう伸子の心の中でも下地がむき出しにあらわされた。