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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

その光景は親愛な気分が漲りユーモラスでもあった。伸子はその情景を思いうかべながら、

「それで何だって?」

とペレウェルゼフ教授の話の内容を素子にきいた。

「ゴーリキイの作品にあらわれているロマンティシズムについて話したんだけれどね」

素子の声に不承知の響があった。

「革命的なロマンティシズムと比較してね、ゴーリキイの多くの作品を貫くロマンティシズムは、概して小市民的な本質だというのさ。『母』だけが階級的なロマンティシズムをもっているっていうわけなんだそうだ」

素子のタバコの煙が、スタンドの緑色のかげのなかを流れている。伸子は、

「ふーん」

と云った。そう云えば、伸子たちがモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)芸術座で見た「どん底」では、巡礼のルカの役をリアリスティックに解釈していた。「どん底」の人々に慰めや希望を与えるものとしてではなく、現実にはどん底生活にかがまってそこから出ようともしないのに、架空なあこがれ話をくりかえして、不平な人々をなお無力なものにしてゆくお喋りの主として、モスクヴィンのルカは演じられた。とくにそのことが、プログラムに解説されていた。