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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

伸子が出て来たとき、台所のところからまたニューラの頭がちょいとのぞいた。どうしたのかしらと思いながら、伸子がそのまま室へ入ろうとするとうしろから、

「お嬢さん!」

すがるようなニューラのよび声がした。伸子は少しおどろきながら台所の前まで戻って行った。

「どうしたの? ニューラ」

「邪魔して御免なさい」

「かまわないわ。――でも、どうかしたの? 気分がわるいの?」

「いいえ。いいえ」

ニューラはまたあわてたように首を左右にふりながら、浅黒い、鼻すじの高い半分ギリシア人の顔の中から、黒い瞳で当惑したように伸子を見つめた。

「きいて下さい、お嬢さん、わたし洗濯ものを干さなけりゃならないんです。奥さんが帰るまでに干しておかなけりゃならないんです。そう云って出て行ったんです」

洗濯ものを干すことで、どうしてニューラがそんなにまごつかなければならないのか伸子にわからなかった。

「ニューラ、あなたいつも自分で干してるんでしょう? それとも奥さんがほしているの?」

「わたしが干しているんです。――でも、わたし、こわいんです」

わたし、こわいんですと云いながら、ニューラはショールの下で本当にそこにこわいものが見えているように見開いた眼をした。