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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

午後三時だけれど、夕方のようで、よその建物の屋根を低く見おろす二つの窓には、くらくなった空から一日じゅう、同じ迅さで降っている雪の景色があった。伸子たちがかけた中央の長テーブルの上には、花が飾ってあった。大輪な薄紫の西洋菊が咲いている鉢なのだが、花のまわり、鉢のまわりを薄桃色に染められた経木の大幅リボンが園遊会の柱のようにまきついて、みどりのちりめん紙でくるんだ鉢のところで大きい蝶結びになっている。白いザラ紙のテーブル・クローズ、粗末なナイフ、フォーク、そしてこの花の鉢。ロシアというところが、その大国の一方の端でどんなに蒙古にくっついた国であるかということを、伸子はつきない感興で感じた。

うしろまでまわるような白い大前かけをかけ、余りきれいでないナプキンを腕にかけた給仕が、皆の前へきつい脂のういた美味そうなボルシチをくばった。献立はひといろで、海老色のシャツにネクタイをつけ、栗色の髪と髭とを特別念入りに鏝でまき上げているその給仕は、給仕する小指に指環をはめている。

犢肉のカツレツをたべながら伸子が思い出したように、

「正餐では可笑しいことがあったわね――話してもいい?」