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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
どういうわけで、ニューラの干したものばかり、盗まれたのだろう。濡れた洗濯ものからはあのときまだ床にしかれた砂の上へ水がたれていたのに。ニューラの荷物と云えば、台所の壁についている折り畳み寝台の下に置かれている白樺の箱の一つだった。
「――こんなことがあるから、つまらないおせっかいなんかしないがいいのさ」
不機嫌に素子が云った。迷惑をうけるばかりでなく、そんな風ならゆうべだってどこに危険がかくされていたのかもしれないのに。そういう意味から素子は不機嫌になって伸子の軽率をとがめた。
「なにか特別なものがあったの?」
「いいえ。シーツが二枚に女の下着やタオルよ。――変ねえ、よそのだってあんなに干してあったのに……」
災難がルイバコフ一軒のことだとは伸子に信じられなかった。
「ニューラは知らなくっても、きっとよそでもやられているんでしょう、いやねえ」
素子は大学へ出かける仕度をしながら、こういうときの彼女の云いかたで、
「わたしは知らないよ」
わざとちょいと顎をつき出すような表情で云った。
「まあ犬にでも何でも嗅がせることさ」
そして、出て行った。
伸子は、一人になってテーブルの上を片づけ、自分の場所におちついた。