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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「わたしにもお見せよ」
と手を出す素子に本をわたし、小包紙や紐の始末をしながら、伸子は、ソヴェトの女のひとたちに果してこの小説にこめられている日本の女性の様々な思いが同感できるだろうかしら、と思った。
「――ここじゃあ、却ってこの小説の男の立場を女にした場合の方が多くて、それならここのひとたちにもわかるんじゃないか」
素子が云う、男の立場というのは、主人公の夫である人物のことだった。その男は、若い妻が、息づまる生活環境に辛抱できないでもがく心持を理解することが出来ず、夫として妻を愛しているという自分の主観ばかりを固執して、複雑な関係の中で破局に導かれる人物だった。
「そうともちがうんじゃない?」
伸子は、その本の美しい小花の木版刷のついたケースをいじりながら云った。
「『インガ』みたいな芝居でも、夫にとりのこされた女は自分で自分を伸してゆく余力をもっているし、またそれが可能な条件を社会生活の中でもっているんだもの……」
伸子のその小説に描き出されているような娘の生活に対する親の執拗な干渉ということ一つとってみても、それはもうソヴェトの社会の習慣と感情のなかからはなくされている事実だった。