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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そこには何か感じられる雰囲気があるのであった。
伸子は、その雰囲気を感じながら同時に自分自身の思いに沈んだ。保の死んだ前後のいきさつをこまかく書いた泰造からの手紙をよんでから、伸子にはあのことも、このこともと思いあたることばかりだった。
駒沢の家をたたんで、荷物を動坂へはこびこんだとき、伸子は本の入った一つの行李だけ別にして保に保管をたのんだ。その行李の中には、もしかしたらモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へおくってほしくなるかもしれないと思う本ばかりをひとまとめにしてあった。伸子がそのことをたのんだとき、保はなぜか、すぐああいい、と言わなかった。ちょっとの間だまっていた。それをけげんに感じた伸子が重ねて、ね、たのむわ、いいでしょう、と念をおしたとき保は、ともかくわかるようにしておく、と言った。
「僕がいなくてもちゃんとわかるようにしておくから姉さん安心していい」
保のその言葉は、ひと息に云われて、何ということなく伸子の印象にのこった。今になって思いおこすと、保の心にはもうそのとき、自分がいつまでも生きているとは思えない計画が浮んでいたのだったろう。