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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
それはみんな伸子を生活の興味へひき戻そうとする素子の心づかいだった。そうして生活へ戻ったとき、伸子はソヴェト社会と自分との関係が、心の中でこれまでとちがったものになったのを自覚した。素子は、もとのままの位置づけでのこった。この間までの伸子がそうであったように、素子は自分をソヴェト社会の時々刻々の生活に絡めあわせながらも、一定の距離をおいていて、必要な場合にはどちらも傷つかずにはなれられる関係のままにのこっていた。
自分と素子とのこのちがいは切実に伸子にわかった。そして、伸子はその変化を議論の余地ない事実として素直にうけいれた。弟の保に死なれたのは素子ではなくて伸子であった。その衝撃が深く大きくて、そのためにこれまでの自分の半生がぽっきり折り落されたと感じているのは、伸子であって素子ではなかった。その結果伸子は、ソヴェト社会につきささった自分という不器用で動きのとれないような感じにとらわれ、そのことにむしろきょうの心の手がかりを見出している。その伸子でない素子が、生活を数年このかた継続して来たままのものとして感じており、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の生活で蓄積されてゆく知識や見聞をそれなりに意識していることは自然であり、当然でもあった。