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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

毎日午後二時には在宅。来訪を待つ。部屋主からの事務的な通知だが、伸子たちはそのアドレスを見て、

「まあ!」

と、手紙の上に集めていた二つの頭をはなして互の顔を見合わせた。

「またあの建物の中よ! なんて縁があるんでしょう!」タイプライターの字が、アストージェンカ一番地とあった。

「じゃ、またあのフラム・フリスタの金の円屋根ね」

「さあ」

素子が実際家らしく、思案した。

「そうとも限るまい。だって、こっちはクワルティーラ(アパートメント)五八とあるもの」

また伸子が下検分の役だった。

六ヵ月ぶりで来てみるとアストージェンカの街角には、やっぱり黒地にコムナールと大きく白字で書いた看板をかかげた食糧販売店の店が開かれており、そのわきからはじまる並木道の樹々は、葉をふるいおとした梢のこまかい枝で冬空に黒いレース模様を編みだしている。フラム・フリスタ・スパシーチェリヤの石垣の下に春ごろ、空のまま放られていたキオスク(屋台店)に、人がはいっていまは新聞だのタバコ、つり下げたソーセージなどを売っていた。

一番地の板がこいには、まだ「この中に便所なし」と書いた紙がはりつけられている。