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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そして、その暗さは、ソヴェト生活の中では特殊な性格をもった。みんなから選ばれた人民委員が大衆の批判をおそれて、こそこそ動く。そのことが、ソヴェト生活の感情にとって不正の証明であるという印象を与えるのだった。その感情は素朴かもしれないが強くはっきりしていて、伸子は、そういう者のために自分たちがいるところをとりあげられるいわれは絶対にないという気が一層つよくおこった。自分たちは外国人で、共産党員でもなければ、革命家でもない。だけれども、少くともソヴェトの人々の真剣な建設の仕事をむしばむ作用はしていない。こそこそアジトをもったりする人民委員よりも、伸子たちの方が心性と事実とにおいてソヴェトの人々の側にいるのだ。伸子は、
「それならそれで結構だわよ、ね」
挑戦的な元気な表情で云った。
「ソコーリスキーがわたしたちをおい出す理由がますます貧弱になっただけだわ」
朝晩は部屋へ運ばれることになっている茶を注ぎながら、素子が幻滅したような皮肉な口調で、
「人民委員は、バルザック(ロシア産の白葡萄酒)がお気に入ったとさ。朝はコーヒーしかめし上らないんだそうだ」
と、唇をゆがめて笑った。