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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

その一軒で伸子は、金色の簡単な飾金のついた褐色小帽子に目をとめたのであった。

伸子と素子とは、その店へ入って行った。そして、ショウ・ウィンドウに出ていたその帽子を見せて貰った。それは伸子の気に入ったけれども、かぶってみるとあわなかった。髪が邪魔した。伸子は、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の婦人たちが、だれもかれもきりっと小さい帽子をかぶっているのは、彼女たちが断髪だったからだとはじめて気がついたのだった。

その褐色帽子を手にとったまますこし考えていた伸子は、ひどく自然な調子で、

「わたし、きるわ」

と云った。

「きる?――いいのかい?」

そういう素子は、ハルビンで断髪になっているのであった。

「ほんとに、きっちゃうわ――いいでしょう?」

「そりゃ、いいもわるいもないけれど」

「じゃ、そう云って頂戴。――どうせ、ちゃんときり直さなけりゃならないんだろうけれど……」

こういういきさつで断髪になった頭に褐色帽子がおさまることになった。伸子は新聞読みに没頭しはじめた素子をデスクの前にのこして、ホテルを出かけた。

伸子のわきの下には、表紙に「黄金の水」という題のある一冊のパンフレットと、縁を赤く染めたモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)製の手帖が抱えられていた。