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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
一九二九年の元旦、朝の儀式が終ってからまた暫く大使館で遊んで、伸子が素子といっしょにルケアーノフの部屋へかえったのは午後五時ごろだった。
ひとやすみして、伸子はノヴォデビーチェの自分の部屋へかえろうとしているうちに、胃のあたりがさしこむように痛んで来た。
「あんまり珍しいお鮨をたべたり、麻雀で勝ったりしたバチかしら……」
冗談のように云いながら、伸子は素子のベッドにあがって、壁へもたれ指さきに力を入れて痛い胃の辺をおした。
「冷えたんだろう」
素子が、湯タンポをこしらえて来た。
「足をひやしていたんじゃなおりっこない。暫く横になっていた方がいいよ」
着たまま毛布の下へ入り、湯たんぽを足の先、胃のうしろと、かわりばんこに動かして伸子は体を暖めようとした。
「どこも寒くないのに……」
痛みはつのって、夜になると、痛いのは胃なのか、それとも体じゅうなのかわからないほどひろがり、激烈になった。伸子は、痛みにたえかねて首をふりながら絶え絶えの泣き声で、
「ねていられない」
とベッドの上におきあがった。腹の中がよじられるように痛み、それにつれて背中じゅうが板のようにこわばった。