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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
スケートをはじめてはいて、一歩あるこうとしては尻もちをつくユーモラスな姿を、どうして素子はロシアの人に見られるのがいやなのだろう。きっとそのスケート場にいる誰かが女か男かが、尻もちをつく素子のそばへ笑いながらやって来て、すべれるこつを教えてくれるだろうのに。ころぶのをロシアの人に見られたくないという素子の気分は、伸子に、いつか、素子が彼女をキタヤンキ!(支那女)とからかった物売女の頬にものも云わず平手うちを加えた感情の激発を思いおこさせた。
思ってみれば素子も一年のモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ぐらしで、生活上のいろいろの細目は加えたけれども、本質的な心もちの動きかたには、何とかわりがないだろう。大きいソヴェト生活のうねりに向ってさえも、素子は何かにつけ自分の自分らしさでうち向って行くようなのを思うと伸子は苦しくなった。
伸子は微に身じろぎをした。そして頬の下へ枕をたぐりよせ、その柔かい羽根のなかへきつく顔をおしつけた。伸子はモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の生活の中へ自分を忘れることを欲するのだった。
十一
澄みわたった二月の午後の雪明りが真白な狭い浴室の隅から隅までさしこんでいる。