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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

早速「黄金の水」がはじまった。短い課業が終って、二人が不自由な英語で雑談していると、入口でベルがなった。

「あら、おかえりなさい! もう?」

出て行ったマリア・グレゴーリエヴナのおどろいたような声がした。対手は男らしいが声は聞えない。伸子がこんどマリア・グレゴーリエヴナが現れたら帰ろうとしていると、

「佐々さん、こんにちは」

ききちがえようのない最低音で云いながら、ノヴァミルスキーが入って来た。つづいてそこへ現れたマリア・グレゴーリエヴナを、

「わたくしの妻です」

と改めて紹介した。

「課業はいかがです?」

ここがノヴァミルスキーの家だとは思いがけなかった。伸子は急にいうことが見つからなくて、

「ありがとう」

と答えた。

「たしかにいい先生を御紹介下さいましたけれども、わたしはいい生徒とは云えないかもしれません」

「そんなことはありません。わたしの経験でわかりますよ」

ノヴァミルスキーもそうだが、妻のマリア・グレゴーリエヴナは、すこし鼻のさきの赤いような顔で熱心に云った。

「佐々さんは、早い耳をおもちですもの」

それにしても、伸子にはやっぱりここがノヴァミルスキーの家だったということが、意外だった。