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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
まあ、ゆっくりやりましょう」
そう云って、全く自然な様子で病室を出て行った。伸子の非難をふくんだ訴えを聞かなかったと同様に。カルテをもった看護婦も同様だった。まるで自分の状態については、何の不満もあるべきようがないというあっさりした感じで出て行った。
彼等のあんまり自然なあたりまえらしさが伸子をおどろかせ、ついで反省をひきおこした。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)では、身重の看護婦がいるということは、或る場合あたりまえのことであったのだ。身重になった看護婦が、一つ病院の中でそういう体で大して無理のない部署へまわり、出産休暇まで勤務をつづけるのは、思ってみればあたりまえのことだった。ソヴェトでは働くすべての女が、姙娠して五ヵ月以後になったとき馘首されることは絶対に禁じられていたから。馘首によって、彼女と赤坊がうけられる四ヵ月の有給休暇や産院の保障、哺育補助費などが奪われることがあってはならないから。
ソヴェトのそういう女の勤労条件を、伸子はパンフレットでよんで知っていたはずだった。産院だの托児所だのも見学していた。だのに、そういう条件が当然病院の中の看護婦にもあてはめられるという現実をのみこまなかった自分におどろいた。