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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
もなく思えるのだった。
伸子が病院から出て、やがてその都会の山の手にある大学の寄宿舎で暮すようになったとき、ミス・ジョーンズが一度芝居に誘ってくれたことがあった。若い女学生たちがざわめいている寄宿舎のホールで、伸子が七階の室からおりて来るのを待っていたミス・ジョーンズの全体の姿は、何と質素で隅から隅まで看護婦らしかったろう。歩いて来る伸子を認めて、ホールの椅子から立ちあがり、伸子の歩くのを扶けようとでもするように手をさしのばしながらいそぎ足によって来たミス・ジョーンズの素振りは、いい看護婦だけのもつまめな親切にあふれていた。その晩行った劇場の名も戯曲の名も、伸子はもう忘れてしまった。三階の席に、ミス・ジョーンズの親友であるもう一人の看護婦が来ていた。幕がすすむにつれて、ミス・ジョーンズはハンカチーフを握って、しきりに目を拭いた。白いハンカチーフで、せっかちそうに涙をふく彼女の手に指環があった。三階のやすい席からのり出して一心に舞台を見ながら涙をふいているミス・ジョーンズの急にふけたような真面目な横顔が、うす明りの中にぼんやり照し出されていた。
大きいおなかを勤勉な生活の旗じるしのようにして悠々勤務しているナターシャの様子を、あの実直で絶えず何かを懸念しているようだったミス・ジョーンズの生存と思いくらべる