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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
わるくない腕でしょう?」
刺繍を見ている伸子にそのひとが云った。
「お気にいりまして?」
「大変きれいだわ」
「もしおのぞみなら、あなたのために、そういう下着類をこしらえさせることができますよ」
「そう? ありがとう」
伸子は、ぼんやり挨拶した。素子も伸子も日本からもって来た白いあっさりしたものばかり身につけていて、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)でわざわざ刺繍させた下着を買うなどとは思いもよらなかった。
「――彼女はじきこしらえるでしょう。一週間もあれば。――あなたはそれまでに退院なさいますか?」
その云いかたで、伸子は、もしかしたらこのひと自身が刺繍のうまい彼女であるかもしれないと心づいた。そこで伸子は、下着類をたたんで、ありがとうとそのひとにかえしながら、
「わたしたちは、ここで簡単にくらしているんです」
と、下着を注文する意志のないことがわかるように云った。
「見事な下着――そして、上へ着るものは?」
女のひとも伸子といっしょに笑って、
「ほんとにね」
と同意した。
「すべての人は簡単にくらしたいと思っているんです。ただ誰にでもそうくらせるものではないんです」