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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「塩気なしの食事でしょう?」
意外らしく女は伸子の顔を見直した。
「――お前さん、医者の勉強もしているのかね」
「世界中、どこでも腎臓の病人には塩気をたべさせないんです」
「それにしたって、お前さんにゃわけがわかるかね。これほど毎日医者の顔さえ見りゃもうなおったって云ってる者を、何だってまた意地にかかって出さないんだか」
女の眼のなかにまたつかみどころのない非難苦悩があらわれた。女は思い嵩じて、脅迫観念のようなものを感じはじめているらしかった。すっかり連絡の絶えてしまった家族や亭主のことが日夜気にかかるあまり。
伸子は蛋白というロシア語を知らないので困った。そればかりか、この女の体のなかにどんな病気があるのか、どうして伸子にわかることが出来よう。伸子はやがていいことを思いついた。レントゲン照射を受けたかどうか女にきいてみた。
「ああ。やられたよ、来て間もなしに一度と、またこの間。――ありゃ高くつくんだってね」
「心配はいりませんよ、あなたは組合員なんだもの。――医者は、あのレントゲンの写真を見て、まだ癒っていないっていうんだと思います。あなたはそれを見なかったにしろ、彼はよく見ていますからね、それが仕事なんだから……」