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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
亢奮がすぎて彼女にも疲れが感じられて来たらしかった。
「お前さんは、よくわかるように説明したよ」
そう云って、女はちらりと微笑に似た皺を口のはたに浮べて伸子を見た。そして、足をひきずるように伸子の病室から出て行った。
お前さんはよくわかるように説明したよ。――何て組合の職場集会での言葉だろう。あのもつれた暗色の剛毛のたまのような女の感情の一部に、そう云う用語になじみきった一つの生活があって、ありがとうともお邪魔さまとも云わず、お前さんはよくわかるように説明したよ、とお礼のつもりで云って帰った。伸子はそこにやっぱりソヴェトとなってからの十年というものを彼女の生活としてうけとったのだった。
こんな風なモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)大学病院での生活のうちに、伸子の病気は快癒するというより、どうやら徐々におちついてゆくという消極的な経過だった。二月も末になってからまだ右脇腹にのこっている重く鈍い痛みで上体をまげたまま伸子はやっと寝台から長椅子まで歩くようになった。
十四
そういう或る日、伸子にとっては一日で一番きもちのいい湯上りの時間だったにかかわらず、彼女は緊張した眼を病室の白い壁にくぎづけにして、考えこんでいた。