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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
その人の年中よっぱらっているような豪放磊落らしい風と、きょう伸子の前に現れた藤原という少佐の人がらはひとめ見て対蹠的であり、普通そうであるように、もとからのひとと新しいアッタッシェの交代が行われず、これからはこの、いかにも互に相補うといった性格の二人がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)に駐在するのだそうだった。東支鉄道の問題、漁業権の問題でこのごろ日ソ国境に関心がたかまっている。そのことが浮んで、伸子にも新しく藤原威夫が加えられて来た意味が察しられるのだった。伸子にさえあらましはその任務の性質が察しられる陸軍少佐が、不思議な御縁で佐々の家にとっては内輪のもののように多計代からたのまれて、伸子の前に出現した。家族に一人も軍人というもののない家庭に育ったせいと、関東地方の大震災のとき憲兵大尉の甘粕が、大杉栄と妻の伊藤野枝と甥の六つばかりの男の子をアナーキストの一族だというのでくびり殺して憲兵隊の古井戸へすてたことがあり、伸子はある場所で、その男の子の母親にあたる若い女の人が声を忍ばして泣く姿を見た。伸子の軍人ぎらいは骨にしみたものになっているのだった。