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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ふん、と思う人々の気持が伸子の頬の上に感じられた。母というひとは、どうして物ごとをあるとおりに、だからこそ誰でもそのことについてすらりと納得するという風に話せないたちなのだろう。娘が外国で病気している。それが心配だし、一度は外国も見ておきたいから、みんなを連れてちょっと行こうと思う。だれがそれをとがめよう。

多計代の手紙の白い紙をスクリーンとして、その上には黒や灰色やあかね色が、どぎつく神秘的な水色をのぞかせながら、あとからあとから漂いすぎている。伸子にはそんな感じだった。その定まりない色の渾沌は、わが身の上に映って動き流れるが、伸子はそれをつかまえてどの一つの色に統一させるということもできず、流れてとまらないおちつきなさを静止させる力もない。

伸子は手紙をしまってから、永いこと枕の上へ仰向いていた。涙にならない涙が伸子の胸のうちを流れた。多計代のえたいのしれない強烈さ。伸子がそれを堪えがたく感じ、偽善だと感じる愛の心理のちぐはぐさ。それが母にとっては微塵のうそのない真情であり、すべての行動はその真情から発しているほか在りようないものと信じられているのを、どうしたらいいのだろう。