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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、それにつけてもナターシャのよろこばしさを曇りなくかばいたいように言った。
「ナターシャ、休暇をたっぷりたのしみなさいね」
すると、ナターシャはにっこりして伸子を見、
「散歩できるんです」
とひとこと言った。散歩できるんです――これこそ休暇のたのしさの根本という風に彼女は言った。思えば、そうなはずだった。看護婦として昼間いっぱい勤務し、夜はモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)大学医科のラブ・ファクに通ってきりつめた時の間でくらしているナターシャにとって、散歩ができるということ、昼間ぶらぶら歩きの時がもてるということは、そのほかにも可能ないろんなたのしさがもりこめる自由な時間、解放と休息の何より確実な証左であるわけだった。
モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)じゅうの樹という樹、建物の樋という樋が三月の雪どけ水で陽気に濡れかがやき、一日ごとに低くなる雪だまりや水たまりの上に虹が落ちているような雪どけのまばゆさは、伸子の病室にもはいって来た。春のざわめきはおなかの大きいナターシャのうれしそうな様子と調和し、伸子のもうじき退院できるという期待の明るさに調和した。