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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
内心こわくてそこにいる伸子にまわりの男たちの奇妙に動じないような様子はどこやら不自然に感じられた。もしピストルの撃ち合いでもはじまったら、カフェーの内部とは云っても、ショウ・ウィンドウ一重へだてただけで広場に向って自分たちをさらしているその位置は安全でなかった。そう云っても、手狭なそのカフェーの内部では、ほかに移る奥まった席もなかった。伸子たちのかけているすぐうしろがカウンターで、ワイシャツにチョッキ姿の太ったおやじがカウンターのうしろに突立って、腕組みしながら表ドア越しに広場を見ている。
それをきいて伸子がカフェーへにげこんだピストルかと思う音は、あの二つぎりでもうしなかった。入口でカーキ色外套の連中に遮えぎられたメーデーの行進は遂に広場へ入って来ることができなかった。一本の赤旗も広場に釘づけされている伸子たちの視野の内にあらわれなかった。段々、目に立たない速さで広場の群集のもみ合いも下火になりはじめた。伸子はそのときになって、その広場につめかけた群集はほとんど男ばかりで、女は見当らないのに気がついた。そして、陰気な広場へ数百人あつまっている男ばかりのその群集が、ワルシャワ市民のどういう層に属す人々なのかも伸子にわからなかった。