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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

週日で人々は働きに出ている午後の時間のせいだろう、と伸子は思った。

黒川隆三は、ここへの常連の一人らしく、なれた様子で廻廊のつきあたりにしまっている一つのドアをノックした。ドアの上には、その建物全体の洋式につりあったおとなしさで図案風に17と番号が白くかかれている。

「ここに、シュミットという爺さんがすんでいるんです。古い旋盤工ですがね。――ひとつ内部を見せて貰いましょう」

心やすい黒川隆三のノックは応えられず、二度三度間をおいてたたいても、ドアのあちら側に人の気配はなかった。

「留守らしいわね」

「爺さん、ふらふら出て行っちまったかな、天気がいいですからね」

黒川隆三の口ぶりは、どういうわけか、たとえばいつもそこにいるはずにきまっている門番の姿が見あたらない、といったときの調子だった。

「その辺へ出て、待って見ましょうか」

云われるままに、伸子と素子とはその廻廊から建物の裏側へぬけて、斜面を見はらす日ざしの気持よい石段の低い墻壁に腰をおろした。五月の晴れた日光にやかれた石肌が、服をとおしてあついくらい伸子のからだにしみとおった。素子は早速タバコをとり出した。