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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そのシュミットがもう帰っているかもしれない、と黒川隆三は建物の廻廊の方へ一人で見に行った。伸子は、彼の姿が少し遠のくと、素子に、
「ここ、どういうのかしら」
すこし低めた声で云った。
「こんなに、子供のいない労働者住宅ってある? どこ見たって、もののほしてある窓一つないなんて――」
モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)のノヴォデビーチェの新開町が、勤労者住宅を中心として雪の中に賑やかに雑沓してあけくれしていた情景を伸子は思いくらべた。あそこではどっちを見ても子供たちがいた。いろんな物音と声がしていた。そして動いて生活の活気がたぎっていた。
「――ここは、だいぶ参観用なんじゃないかな」
素子がそう云って、皮肉そうにタバコをもっている手で顎をなでるようにした。そこへ、
「まだかえっていませんよ――せっかく来たのに残念だなあ」
と、黒川隆三が、脱いだ黒いソフト帽を片手にふりながら伸子たちのところへもどって来た。
「いつもいるんですがね、あいにくだ」
「いいですよ」
素子が云った。
「いずれ、内部も外同様、さぞこざっぱりしているんだろうから」
「それを見てもらいたいんです」