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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「へんな云いかたするのはやめてくれ」

きめつけは伸子にも意外であった。みんなしばらくはだまってしまった。

二つめのビールのみがめいめいの前に並ぶころから、こだわりもとれて、川瀬勇も中館公一郎も活気づいて雄弁になってきた。

「君たち、せっかくききに来てくれたんなら、あんな隅っこにいないで、堂々と入って来りゃよかったのに――」

素子が云った。

「恐れ、恐れ」

中館公一郎が、皮肉な誇張で首をちぢめるようにした。

「ああいうおえらがたに、われわれはあんまり近よらないことにしているんです」

「佐々君が、みんなに、自分で行ってソヴェトを見てこいと云ったときの連中の顔は見ものだったな。誰一人、うんともすんとも音を立てなかったじゃないか」

「でも、ほんとにどうしてみんな行かないんでしょうね、せっかくベルリンまで来ているのに。――あんなに慾ばって最新知識の競争しているのに」

神経のくたびれが段々ほごされて来て艷やかな顔色にもどった伸子がきまじめな疑問を出した。

「みんなヴィクトリア通いにいそがしいからさ」

素子が云った。ベルリンには、日本人専門の女たちがいるそういう名のカフェーがあるのだった。