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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子はそれに目をとめて、おや、と万事につけて川瀬のあい棒である中館公一郎を見た。例のとおりたださえ濃い眉の上に黒く丸く大きく眼鏡のふちを重ねた中館は、眼鏡がもちおもりして見える細おもてを、さりげなく窓の方へ向けて指の先でテーブルをたたいている。その中館の、表情をかえずにいる表情、というようなところにも何だか伸子をいたずらっぽい気持へ刺戟するようなものが感じられる。伸子は、
「あら……なんなんだろう」
まばたきをとめて、当てっこでもするように中館を見つめた。
「――なにがあるの?」
「相談でしょう」
芝居のせりふをいうときのような口元の動しかたで中館が答えた。
自分たち二人分の勘定をはらったついでに、素子がテーブルのかげでこれから切符買いに行くために金をしらべはじめた。街頭に面して低く開いている窓から、ベルリンの初夏の軽い風が吹きこんで来て、その部屋のかすかな日本のにおいをかきたてる。
「川瀬さん!」
ずるいや、という感じで溢れる笑い声で、ほどなく伸子が川瀬をよんだ。
「なに?」
「わかったわ――これはわたしたちにとって妙案であるより以上に、川瀬勇にとっての妙案だったんでしょう?」