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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「ロシアの人のこころとチャールストンのリズム、ちがうでしょう」

伸子も、ドーリヤにわからせようと片言の日本語になって云った。ドーリヤは、なおしばらく、せかせかとぎごちなく足を動かしていたが、

「本当だわ」

ロシア語で、真面目な顔つきで云って足のばたばたは中止にし、両手をうしろに組んで、面白いことをさがし出そうとするように、秋山の室のなかをぐるりと歩いた。やがて伸子のよこにかけて羽織をいじくっているうちにドーリヤは、子供のとき両親につれられて、日本見物に行ったときのことを話し出した。

「何と云いました? あの温泉のある美しい山の公園――」

「どこだろう、ハコネですか」

秋山が云った。

「おお、ハコネ。そこで、わたくし、一つの箱買って貰いました。小さい小さい板のきれをあつめて、きれいにこしらえた箱です、そして、それ、秘密のポケットもっていましたね」

「ああ寄木細工の箱だ――貯金箱ですよ」

慎重な顔で内海が、きわめつけた。

「その箱、いまどこにあるの?」

伸子がそうきくと、ドーリヤ・ツィンは目に見えて悄気た。両肩をすくめて、

「知りません」

悲しそうに云った。

「わたしたちはどっさりのものを失ったんです。