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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、ふと似たようなものが、ベルリンにいる川瀬勇たちの生活気分のうちにもあるのではないかしらと思った。その思いあたりは、女としての伸子を、何かしら感覚的にはっとさせるようなものをもっているのだった。
また伸子が窓の前へ立って、雨足のつよい夜の鋪道を見おろしているところへ、うしろのドアがあいた。
「なんだぶこちゃん、まだ仕度もしてないのか」
それは湯あがり姿の素子だった。
「すぐ行きなさい。ここのおやじのことだから、どうせすぐあとをぎっしり詰めているにきまってるんだから」
「じゃ、すぐ出して来るわ」
伸子は浴槽へ湯をみたして来るつもりだった。すると、
「すぐはいれるようにして来てあるんだよ」
あるんだよ、というところへ一種のアクセントをつけて、いつもそういうときの素子の、自分の親切がくやしいような口調だった。
「どうもありがとう、じゃ、はいって来る」
三十分ほどして、伸子は顔も体もさっぱりと桜色になって、洗った断髪をタオルできつくこすりながら戻って来た。素子は、テーブルの上へ旅行用の裁縫袋をとり出して、上衣の絹裏がほつれたのをつくろっている。あしたからおろしてはくための新しい靴下がセロファン袋のまま裁縫袋のわきに出ている。