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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子はそうも思った。何がどうであるにしろ、父も母も、うちのものみんなは、パリにいる伸子というものを心あてにして四十日の航海をして来ているのだった。あしたはたった一人で出迎える自分として、できるだけ賑やかに、みんなを迎えよう。伸子はそう決心した。
翌朝、九時すこし前というのに、もう暑いマルセーユの波止場で、タクシーからおりたった伸子の腕には、大きな花束が抱えられていた。そのほか、グリーンのリボンでぶら下げられている、ふざけた顔つきの青びろうど製のむく犬。同じようにバラ色のリボンにつられて、薔薇の花びらを重ねたように華やかなスカートをふくらませているフランス人形。そんなものが女学生っぽい伸子の身のまわりにひきつれられている。埠頭には、船腹に赤錆を出した、見っともない船が一艘横づけになっていた。パイプをくわえた波止場人足が多勢、ぶらぶら仕事のはじまるのを待っている。その辺に出迎人らしいものと云えば、ひさしの人に金モールでホテルの名をぬいだした丸形帽をかぶったホテルの案内人が二三人いるぐらいのものだった。伸子は、てっきり埠頭がちがうと思った。そこにはいっている船はどうみても貨物船だった。