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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
あるところへ来たとき、いきなり伸子は全身で爪立って、花束を大きく左から右へ、右から左へとふりはじめた。父の泰造が見つかったのだった。つづいて、つや子がわかった。小枝もいる。母が見えた。そして、和一郎も。
船の上でも、まばらな波止場人足の間にぽっちりと一人まじって、花束をふっている伸子を見わけたらしかった。そこにざわめきがおこって、泰造が盛に帽子で合図をはじめた。つくん、つくん、とび立つような子供らしい手のふりかたで、つや子があいさつをよこした。多計代も和服のたもとをひるがえして高く手をあげた。
それにこたえて、伸子は花ばかりでなく、こんどは青い犬ころと人形とを、ゆるく大きく、輪をかくようにふりまわしはじめた。船の顔々がそれを見おろして笑っているのがわかった。伸子も、笑いながら、
「みんなの顔が見えることよウ」
と叫び、ますます陽気に犬ころと人形とをふるのだったが、そうやって賑やかに笑っている伸子の眼のなかには涙がにじんだ。
何という多計代の変りかただろう。伸子が東京を立って来たころは、いつもふっさりと結ばれていて、多計代らしい派手ごのみだったひさし髪は、ひきつめられて前がみのほとんどない、髪のゆいぶりにかわっている。