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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そこからはディエナ通が見おろせた。つや子も素子について、そっちにいる。

そばでみると、多計代の髪は随分白くなっていた。それを、上から黒チックで黒くして、前髪のつまった束髪に結っているのだったが、黒チックは多計代の形のいい額の生えぎわをきたなくしているようだった。伸子は、

「おかあさま、もしかしたら、そのチックやめてみたら」

と云った。

「地のまんまの方が立派じゃないかしら。血色のさえた顔色をしていらっしゃるんだから、かえって引立つと思うけれど……」

「さあねえ……」

伸子のいうことには賛成できない風で手鏡を見ていた多計代は、一遍化粧台の上においた眉筆をまたとりあげた。そして、両方の眉のはじまりのところを、すこしずつ強く黒くした。そうすると、眉に起筆のアクセントのような調子がついて、いわばその不自然さが多計代の若いときからの美貌の特色をはっきりさせるのだった。

古びた紅いカーペットをしきつめて寝室のごたごたしたなかで化粧する多計代の手もとに気をとられながら、伸子の心の底は何かの不安――どうかしなければならないことの予感にみたされているのだった。

三

七月の晴れた朝のマルセーユの港で、まだ船からおりずにいるうちのものの姿を見たとき、特に父の泰造の顔とやつれきった多計代の様子を見たとき、伸子の心はしめつけられて、ほんとに