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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
あくる日の朝、パリへ向けて出発するまで一昼夜たらずの間に、伸子が、うけた印象は非常に複雑だった。複雑になる根柢には、多計代の健康が弱っているという事情があった。それに加えてもう一つの原因があった。それは多計代が、迎えに来た伸子をいれて目に見える一行六人のほかに、見えないもう一人保という存在をはっきり自分の感情のなかにおいて、旅行に出て来ているという事実だった。
夜ねる前に和一郎と小枝の部屋へ行ったとき、伸子は、
「おかあさま、船のなかでも、あの錦へつつんだもの、ああやってずっと飾っていらしたの?」
ときいた。小枝は、若い良人である和一郎の方を見ながら、
「そうなの」
当惑そうに答えた。
「お兄さまは、うんといやがってるんだけれど……」
こんどの旅行に出る二ヵ月ばかり前に、思いあっていた従兄である和一郎と結婚したばかりの小枝は、こまかい事実を知らないだろうけれども、去年の八月、暑中休暇のがらんとした動坂の家で、姿の見えなくなった弟の保をさがして、父の泰造と二人、竹藪のなかや古井戸をしらべたのは和一郎であった。土蔵の地下室に保を発見したのも、そこから運びだしたのも和一郎であった。