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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

泰造は、そこで鹿皮の手袋を、二種類買った。

トロア・カルチエの前の歩道のマロニエの樹かげにたたずんで、泰造は、

「さて、――どうしますか?」

と伸子に云った。これは泰造のくせだった。東京で、伸子が泰造の事務所へよって昼飯を一緒にたべたりしたあと、泰造はいつもこれを云った。そして、伸子の予定をきいた上で、そのまま別れることもあったし、どうせ、次の約束までにはまだ時間があるから、と伸子に便利なところまで車で送って来てくれることもあった。いま、パリの繁華なブルヴァールのマロニエの下で、

「さて、どうしますか?」

と、いつもながらの父の云いかたをきいて、伸子は何だか胸が急にいっぱいになるような、まごついたような心持になった。

「お父様は?」

娘としての習慣から、伸子はひとりでにそうききかえした。パリで、はじめて父と二人きりで外に出ているという条件は、その日の外出のはじめから伸子をいくらかふだんと違うこころもちにさせていた。伸子には、父にゆっくりと隔意なく訊いて見たいようなことがいろいろあるのだった。こんどのヨーロッパ旅行について、父のもっている全体の見とおしについて。