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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

一旦つけた灯をまた消して、二人は露台へ涼みに出た。街ではまだ人々が踊っている。音楽がきこえて来る。夜空の下に、パリ名物の細い煙突が無数に林立している屋根屋根が続き、はるか遠くセイヌ河の対岸でエッフェル塔のイルミネーションが、パリ祭の夜をとおして明滅している。イルミネーションは、シトロエン6、シトロエン6。それからシトロエン6・6・6とせわしくまたたいて、シトロエン自動車の最新型6シリンダーの広告をしている。

統一労働総同盟は、こんやの革命記念祭のためにパリの労働者地区のどこかで、午後は演説会を、夜は盛大な祝祭を催しているはずだった。「リュマニテ」のひと隅に、伸子はそれらしい広告を見た。伸子たちのパリには、七月十四日の夜じゅうピエロ帽をかぶって、コンフェッティをぶつけあってナイト・クラブをひっぱりまわす人もいないかわり、東部のそういう組合の祝祭や演説会へ案内してくれる人もいない。

革命というものの実体は忘られて、庶民風な男女の無礼講、おおっぴらな歓楽の夜としてのパリ祭を、伸子と素子とは街の上にもホテルの内にも発見しているのだった。

午前一時すぎの涼しい露台に坐って、伸子と素子とはかすかな疲れを感じ、一種の寂しさを感じ、その為に互に相手を優しく思いあいながら沈黙していた。