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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
七月二十三日の明けがたの急襲は、その妨害だった。
その日の午ごろ、例によって伸子がペレールの家へあらわれると、多計代は、
「きょうは、明けがたに妙なことがあったよ。伸ちゃんの方はどうだったい」
ときいた。伸子はヴォージラールのホテルの七階で、何にも知らなかった。目をさまされるような特別のことは何もなかった。
「どうしたんだろう」
多計代は、自分の記憶が夢の中のことでないのをたしかめるような眼つきで、
「あけがた、外を何度にも、騎馬で通ったものがあるんだよ。ふっと眼がさめたら、かなりどっさりの蹄の音がしているじゃないか。おや何だろうと思って耳をすましていたら、つづけて、あれでどの位通ったんだろう。大分の数だったよ。わたしは段々薄気味がわるくなってね、お父様に起きて頂いたけれど、何だかわからなかった。――何だったんだろうね」
そのとき、伸子はまだその明方に何事が行われたか知らなかった。母が、おびただしい馬蹄の音を往来の上にきいて、そんな不安を直感したという、そのことの方がむしろ不思議だった。
二十四日の新聞で、伸子は、前日の夜あけの出来ごとを知った。多計代が目をさましてきいたという馬蹄の響は、そのためにくり出されたパリの騎馬巡査がどっかへ行く音だったのかもしれない。