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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
それが、ことのはじまりらしかった。和一郎の主張は、和一郎と小枝が今度の旅行でつかうべき金額全部を、この際、はっきり計算して、親たちの会計からわけて貰いたいというのが眼目だった。
「急にそんなことを云い出されたって、わたしにどうしようがあるもんじゃあるまいし――第一、お父様もいらっしゃらないのに」
娘をあいてに、いきさつを説明しているうちに神経的に喉のつまっていた多計代の声が、段々自然に出るようになって来た。
「第一お前、あのひとたちに、お金をみんなわたしてなんか御覧。半年のところが三月で消えてしまうにきまっているから……」
親たち夫婦とつや子がペレールへ引越して間もない或る朝、泰造がワグラム広場で和一郎夫婦にでくわしたことがあった。午前十時すぎごろ、若夫婦が広場の角のカフェーのテラスで、めいめいの前に葡萄酒のコップをおいて、のんびり往来を眺めていたところだった。小枝が目ざとく歩道を近づいて来る泰造を発見した。
「――お父様よ」
と云ったとき、もう泰造は二人のわきへ来た。その場では泰造らしく、小枝に機嫌のいい調子で口をききながら、自分もコーヒーを一杯つきあって、わかれて行った。