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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は、苦しげにむずかしい顔でしばらく黙っていたが、
「お母様、せん、和一郎さんが茶碗をぶつけたというときね、あの人は、お母様をめがけて茶碗を投ったの? それとも、ただ畳かどっかへなげつけたの」
「そりゃあ、お前……」
つづけて口から出そうになった言葉を、思わずためらって、多計代は、きびしい表情で自分の答をまっている娘の顔へ視線を向けた。
「いかにあのひとだって、わたしにぶつかるように投げつけやしなかったさ」
「きょうはどうだったの?」
「…………」
「お母様は、お金のために和一郎さんが椅子でお母さまをうち殺すことがあるなんて、ほんとにお思いになったの?」
「――伸ちゃんは、あのときの和一郎の相好を見ていないからわからないんだ――ほんとに、あの勢ったら」
「もちろん和一郎さんは、悪いわよ。ひとをおどすようなことをするなんて、男らしくない卑劣なことだわ。――でも、お母様」
伸子の体をあふれてこのいきさつ全体に対する厭わしさ、悲しさ、腹立たしさが、いっぱいになった。伸子は低い、迫る声で多計代に云った。
「お母様には、その途端にだってわかっていたはずよ。和一郎がそれ以上のことをしようとしていないっていうことは――」