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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「なんにもお前がどうこうっていうわけじゃないさ。だけれど、和一郎たちの味方をするのはいつも伸ちゃんじゃないか」
「そうお? 椅子をふりあげても、わたしは和一郎に味方して? お母さまも和一郎も、感情的にひっかかってごたついてばかりいたってはじまらないから、わたしは、実務的なことは実務的に片づけた方がいいでしょうと云っているだけだのに」
泰造は、ひとことも口を利かずアーム・チェアにもたれて腕組みをしている一方の手で、ときどき目立たないように上歯の義歯を動かしている。重苦しい気分のとき泰造のあらわす癖だった。つや子はさっきから、母親と姉とのけわしい話声にはじき出されたように露台にいた。手摺りにもたれて、街燈がマロニエの並木を下の方からてらしている夜の静かなブルヴァールを見下している。日本を立つとき着せられて来たまま、ずっとそれを着ている草色のスカートのたけがつや子には短かすぎて、露台の手摺にもたれこんでつり上ったスカートのうしろと靴下の間から、ちらりとふとったみが見えている。それは、いかにも身のまわりをこまやかに見まもってくれる者をもたない、中途半端な年ごろの少女の可哀そうな後姿だった。