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さこく

鎖国

和辻 哲郎

日本の悲劇

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页

青空文庫

最後の一カ条を除けばすべてスペイン人の裁判に附せらるべきものではないが、その唯一の箇条が証拠不十分のため、あとの諸箇条を以て色をつけたのである。裁判は直ちに開始された。証人も呼ばれた。が悪意のある通弁は証言を勝手に歪曲した。しかもそのあとでアタワルパの死刑の利と不利が討議されたという。その結果アタワルパは有罪と認められ、火刑が宣言された。そうしてその夜直ちに執行されることとなった。ソトの偵察の報告を待ち、謀叛の事実の真偽を確めようとは、彼らはしなかったのである。尤もこの専横なやり方に反対する人もないではなかった。証拠は不十分である。また一国の君主を裁く権限はこの法廷にはない。裁判すべくばスペインに送り皇帝の前で行わるべきである。これが反対意見であった。しかしそれは十対一の少数で敗れた。

宣告を聞いた時のインカの悲しみはさすがのピサロをも感動させたほどであった。倍の身代金でも払うと哀願するインカに面していることが出来なくなって、彼は背を向けた。インカはもう駄目と悟ると、平生の落ち着きを取戻し、その後は平然としていた。かくしてインカの死刑は、一五三三年八月廿九日の日没後二時間にして行われることとなった。