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はいいろのきょじん

灰色の巨人/魔法博士

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《灰色の巨人/魔法博士(はいいろのきょじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 156,085 字 · 312 頁

青空文庫

綱が切れたのです。いや、ゾウの腹にとりすがっている松村が、ナイフを出して、綱を切ったのです。

見ると、ゾウの腹の下に、ハンモックのようなものがとりつけられ、松村はその上に寝そべって、下界を見おろしながら、右手をひらいて、じぶんのはなさきにあて、さもばかにしたように、ヘラヘラと動かしています。「ここまでおいで。」といわぬばかりです。

切れた綱を見ますと、四十センチおきぐらいに、むすび玉がこしらえてありました。松村はそれに足の指をかけてのぼったのです。このむすび玉も、ゾウの腹のハンモックも、夜のうちに、だれかが、つくっておいたものにちがいありません。

その日は、西北の風が、そうとう強くふいていたので、ビニール風船の巨ゾウは、高い高い空を東南にながされて、みるみる小さくなっていきます。やがて、松村の姿が、肉眼では見えなくなり、それから、巨ゾウのすがたさえも、まめつぶのように小さくなってしまいました。

支配人は、そのときまで、ぼんやり空をながめていたわけではありません。綱がはんぶんほどに引きよせられたとき、ふと、そこへ気がついて、あわてふためいて、屋上のエレベーターの前にかけつけ、しきりにボタンをおすのでした。