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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
線上閱讀福沢 諭吉《福翁自伝(ふくおうじでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 頁
木村摂津守
その事が定まろうとすると、日本の乗組員は米国人と一緒に乗るのは厭だと云う。何故かと云うに、若しその人達を連れて帰れば、却て銘々共が亜米利加人に連れて行て貰たように思われて、日本人の名誉に係るから乗せないと剛情を張る。夫れ是れで政府も余程困た様子でありしが、到頭ソレを無理圧付けにして同船させたのは、政府の長老も内実は日本士官の伎倆を覚束なく思い、一人でも米国の航海士が同船したらばマサカの時に何かの便利になろうと云う老婆心であったと思われる。
木村摂津守艦長木村摂津守と云う人は軍艦奉行の職を奉じて海軍の長上官であるから、身分相当に従者を連れて行くに違いない。夫れから私はどうもその船に乗て亜米利加に行て見たい志はあるけれども、木村と云う人は一向知らない。去年大阪から出て来た計りで、そんな幕府の役人などに縁のある訳けはない。所が幸に江戸に桂川と云う幕府の蘭家の侍医がある。その家は日本国中蘭学医の総本山とでも名を命けて宜しい名家であるから、江戸は扨置き日本国中、蘭学社会の人で桂川と云う名前を知らない者はない。ソレ故私なども江戸に来れば何は扨置き桂川の家には訪問するので、度々その家に出入して居る。