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ふくおうじでん

福翁自伝

福沢 諭吉

線上閱讀福沢 諭吉《福翁自伝(ふくおうじでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 頁

青空文庫

始めて上野、向島を見る

その癖私は能く事情を知て居る。誠に事細に知て居るその訳けは、小本なんぞ読むにも及ばず、近く朋友共が馬鹿話に浮かれて饒舌るのを、黙て聞て居れば容易に分る。六かしい事も何にもない、チャンと呑込んで知て居るけれども、如何なこと、左様な事を思出したこともないのみならず、吉原深川は扨置き、上野の花見に行たこともない。

始めて上野、向島を見る私は安政三年、江戸に出て来て、只酒が好きだから所謂口腹の奴隷で、家にない時は飲みに行かなければならぬ、朋友相会すれば飲みに行くと云うような事は、ソリャ為て居るけれども、遂ぞ花見遊山はしない。文久三年六月、緒方先生不幸のとき、下谷の自宅出棺、駒込の寺に葬式執行のその時、上野山内を通行して、始めて上野と云う処を見た。即ち私が江戸に来てから六年目である。「成る程これが上野か、花の咲く処かと、通行しながら見物しました。向島もその通りで、江戸に来てから毎度人の話には聞くが一度も見たことがない。所で明治三年酷い腸窒扶斯を煩い、病後の運動には馬に乗るのが最も宜しいと、医者も勧め朋友も勧めたので、その歳の冬から馬に乗て諸方を乗廻り、向島と云う処も始めて見れば、玉川辺にも遊び、市中内外、行かれる処だけは何処でも乗廻わして、東京の方角も大抵分りました。