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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
線上閱讀福沢 諭吉《福翁自伝(ふくおうじでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 頁
夜になると天神橋か天満橋の橋詰に魚市が立つ。マア云わば魚の残物のようなもので直が安い。夫れを買て来て洗水盥で洗て、机の毀れたのか何かを俎にして、小柄を以て拵えると云うような事は毎度遣て居たが、私は兼て手の先きが利いてるから何時でも魚洗の役目に廻って居た。頃は三月、桃の花の時節で、大阪の城の東に桃山と云う処があって、盛りだと云うから花見に行こうと相談が出来た。迚も彼方に行て茶屋で飲食いしようと云うことは叶わぬから、例の通り前の晩に魚の残物を買て来て、その外、氷豆腐だの野葉物だの買調えて、朝早くから起きて怱々に拵えて、それを折か何かに詰めて、それから酒を買て、凡そ十四、五人も同伴があったろう、弁当を順持にして桃山に行て、さん/″\飲食いして宜い機嫌になって居るその時に、不図西の方を見ると大阪の南に当て大火事だ。日は余程落ちて昔の七ツ過。サア大変だ。丁度その日に長与専斎が道頓堀の芝居を見に行て居る。吾々花見連中は何も大阪の火事に利害を感ずることはないから、焼けても焼けぬでも構わないけれども、長与が行て居る。若しや長与が焼死はせぬか。何でも長与を枚い出さなければならぬと云うので、桃山から大阪迄、二、三里の道をどん/″\駈けて、道頓堀に駈付けて見た所が、疾うに焼けて仕舞い、三芝居あったが三芝居とも焼けて、段々北の方